私をお擇びなすツたのぢやありませんか。」
「然《さ》うだツたかな。」と空《そら》ツ恍《とぼ》けるやうに、ちらと空を仰《あほ》ぎながら、「とすりや、そりや俺《おれ》がお前を擇《えら》んだのぢやない、俺の若い血がお前に惚《ほ》れたんだらう。」
「それは何方《どつち》だツて可《よ》うございますけれども、私は何も自分から進むで貴方《あなた》と御一緒になツたのぢやございませんから、何《ど》うぞ其のお積《つもり》でね。」
「可《い》いさ、俺《おれ》もそりや何方《どつち》だツて可《い》いさ。雖然《けれども》是《これ》だけは自白《じはく》して置く。俺はお前の肉《にく》を吟味《ぎんみ》したが、心は吟味《ぎんみ》しなかツた。ところで肉と肉とが接觸したら、其の渇望《かつばう》が充《みた》されて、お前に向ツて更に他《た》の望《のぞみ》を持つやうになツた。而《す》るとお前は中々此の望を遂《とげ》させて呉れるやうな女ぢやない、で段々《だん/\》飽いて來るやうになツたんだ。お前も間尺《ましやく》に合はんと思ツてゐるだらうが、俺《おれ》も充《つま》らんさ。或意味からいふと葬《はふむ》られてゐるやうなものなんだからね。
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