何しろ此の家《うち》の淋しいことは何《ど》うだ。幾ら人數《にんず》が少ないと謂《い》ツて、書生もゐる下婢《げぢよ》もゐる、それで滅多《めつた》と笑聲さへ聞えぬといふのだから、恰《まる》で冬の野《の》ツ原《ぱら》のやうな光景だ。」
「其《それ》は誰《たれ》の故《せい》なのでございませう。」
「誰の故《せい》かな。」
「私《わたし》は貴方《あなた》に無理にお願をしてバイヲリンの稽古《けいこ》までして、家庭を賑《にぎやか》にしやうと心掛けてゐるやうな譯ぢやございませんか。」
「其のバイヲリンがまた俺の耳觸《みゝざわり》になるんだ。あいにくな。」
「それぢや爲方《しかた》が無いぢやありませんか。」
「眞個《まつたく》爲方《しかた》が無いのさ。」
「ぢや何《ど》うしたら可《い》いのでございませう。」
「解《わか》らんね。要するにお前の顏は紅《あか》い、俺の顏は青い。それだから何《ど》うにも爲樣《しやう》のないことになつてゐる。」
爲樣《しやう》があらうが有るまいが、それは私《わたし》の知ツたことぢやない! といふやうな顏をして、近子《ちかこ》はぷうと膨《ふく》れてゐた。そして軈《やが》て所天《を
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