つと》の傍《そば》を離れて、椽側《えんがは》を彼方《あつち》此方《こつち》と歩き始めた。俊男《としを》はまた俊男で、素知らぬ顏で降《ふり》濺《そゝ》ぐ雨に煙る庭の木立《こだち》を眺めてゐた。
此の突《つ》ツ放《ぱな》すやうな仕打をされたので、近子は些《ちつ》と拍子抜《ひやうしぬけ》のした氣味であつたが、何《な》んと思つたのか、また徐々《そろ/\》所天《をつと》の傍へ寄ツて、「貴方《あなた》は、何《な》んかてえと家《うち》が淋しい淋しいツて有仰《おつしや》いますけれども、そりや家に病身の人がゐりや、自然《しぜん》陰氣《いんき》になりもしますわ。」
別に深い意味で謂《い》ツたのでは無かツたが、俊男は何んだか自分に當付《あてつ》けられたやうに思はれて、グツと癪《しやく》に障《さわ》ツた。
「フム、其《それ》ぢや何《な》んだな、お前は俺《おれ》が此の家を陰氣にしてゐるといふんだね。」と冷靜に謂《い》ツて、さて急に激越《げきえつ》した語調となる。「成程《なるほど》一家《いつか》の中《うち》に、體の弱い陰氣な人間がゐたら、他《はた》の者は面白くないに定《きま》ツてゐる。だが、虚弱《きよじやく》なの
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