ですから、暖《あつたか》い間《うち》に召喫《めしあが》ツて頂戴な。ね、貴方《あなた》。」と少し押へた調子でせつく[#「せつく」に傍点]やうにいふ。
「ビフテキが燒いてある?………ほ、それは結構《けつこう》だね。お前は胃《い》の腑《ふ》も強壯な筈だから、ウンと堪能《たんのう》するさ。俺は殘念ながら、知ツての通り、半熟《はんじゆく》の卵と牛乳で辛而《やつと》露命《ろめい》を繋《つな》いでゐる弱虫だ。」と皮肉《ひにく》をいふ。
「ま、何處《どこ》まで根性《こんじやう》がねぢくれてゐるのでせう。」と思ひながら、近子は瞥《ちら》と白い眼を閃《ひらめ》かせ、ブイと茶の間の方へ行ツて了《しま》ツた。遂々《とう/\》むかツ[#「むかツ」に傍点]腹《ぱら》を立てゝ了《しま》ツたので。
俊男は苦い顏で其後を見送ツてゐて、「俺《おれ》は何を此樣《こん》なにプリ/\憤《おこ》ツてゐるんだ。何を?………自分ながら譯の解《わか》らんことを謂《い》ツたもんぢやないか。これも虚弱から來る生理的作用かな。」
と思ツて、また頽然《ぐつたり》考込む。
薄暗いやうな空に午砲《ドン》が籠《こも》ツて響いた。
「成程お午《ひる》
前へ 次へ
全23ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三島 霜川 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング