だ。」と呟《つぶや》き、「近《ちか》の腹の減《へ》ツたのが當前で、俺《おれ》の方が病的なんだ。一體俺の體は何故《なぜ》此樣《こん》なに弱いのだらう。」
俊男の頭の中には今、自分が病身の爲に家庭に於ける種々《さま/″\》なる出來事を思出した。思出すと其《それ》が大概《たいがい》自分の病身といふに基因《きゐん》してゐる。
「俺は何故《なぜ》此樣《こん》なに體が弱いのだらう。」と倩々《つく/″\》と歎息《たんそく》する。
「一體|俺《おれ》は何《ど》うして何樣《こん》なに意固地《いこぢ》なんだらう。俺が惡く意固地だから、家が何時《いつ》もごたすた[#「ごたすた」に傍点]してゐる。成程俺は妻《さい》を虐《いび》り過ぎる………其《そ》ンなら妻が憎《にく》いのかといふに然《さ》うでもない。豈夫《まさか》に追《お》ン出す氣も無いのだから確《たしか》に然《さ》うでない。雖然《けれども》妻に對して一種の反抗心を持ツてゐるのは事實だ………此反抗心は弱者が強者に對する嫉妬《しつと》なんだから、勢《いきほひ》憎惡《ぞうを》の念が起る………所詮《つまり》俺《おれ》は妻が憎いのでなくツて、妻の強壯な體を憎むでゐる
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