いて、濕氣《しつき》は骨の髓《ずゐ》までも浸潤《しんじゆん》したかと思はれるばかりだ、柱も疊も惡く濕氣《しつけ》て、觸《さは》るとべと/\する。加之《それに》空氣がじめ/\して嫌《いや》に生温《なまぬる》いといふものだから、大概《たいがい》の者は氣が腐《くさ》る。
「嫌な天氣だな。」と俊男は、奈何《いか》にも倦《う》んじきツた躰《てい》で、吻《ほ》ツと嘆息《ためいき》する。「そりや此樣《こん》な不快を與へるのは自然の威力で、また權利でもあるかも知れん。けれども此樣《こん》な氣候にも耐えてゐなければならんといふ人間は意久地《いくぢ》無《な》しだ。要するに人間といふ奴《やつ》は、雨を防《ふせ》ぐ傘を作《こしら》へる智慧《ちゑ》はあるが、雨を降らさぬやうにするだけの力がないんだ。充《つま》らん動物さ、ふう。」と鼻の先に皺《しわ》を寄せて神經的の薄笑《うすわらひ》をした。
何しろ退屈《たいくつ》で仕方《しかた》が無い。そこで少し體を起して廣くもない庭を見※[#「廻」の「回」の部分が「囘」、230−上16]して見る。庭の植込《うゑこみ》は雜然《ざつぜん》として是《これ》と目に付《つ》く程の物も無
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