つと》の傍《そば》を離れて、椽側《えんがは》を彼方《あつち》此方《こつち》と歩き始めた。俊男《としを》はまた俊男で、素知らぬ顏で降《ふり》濺《そゝ》ぐ雨に煙る庭の木立《こだち》を眺めてゐた。
此の突《つ》ツ放《ぱな》すやうな仕打をされたので、近子は些《ちつ》と拍子抜《ひやうしぬけ》のした氣味であつたが、何《な》んと思つたのか、また徐々《そろ/\》所天《をつと》の傍へ寄ツて、「貴方《あなた》は、何《な》んかてえと家《うち》が淋しい淋しいツて有仰《おつしや》いますけれども、そりや家に病身の人がゐりや、自然《しぜん》陰氣《いんき》になりもしますわ。」
別に深い意味で謂《い》ツたのでは無かツたが、俊男は何んだか自分に當付《あてつ》けられたやうに思はれて、グツと癪《しやく》に障《さわ》ツた。
「フム、其《それ》ぢや何《な》んだな、お前は俺《おれ》が此の家を陰氣にしてゐるといふんだね。」と冷靜に謂《い》ツて、さて急に激越《げきえつ》した語調となる。「成程《なるほど》一家《いつか》の中《うち》に、體の弱い陰氣な人間がゐたら、他《はた》の者は面白くないに定《きま》ツてゐる。だが、虚弱《きよじやく》なのも陰欝《いんうつ》なのも天性《てんせい》なら仕方がないぢやないか。人間の體質や性質といふものが、然《さ》うヲイソレと直されるものぢやない。俺《おれ》の虚弱なのと陰鬱なのとは性得《うまれつき》で、今更自分の力でも、また他《ひと》の力でも何《ど》うすることも出來やしない。例《たと》へばお前の頬《ほ》ツぺたの紅《あか》いを引《ひ》ツ剥《ぺ》がして、青くすることの出來ないやうな。」と細《こまか》に手先を顫《ふる》はせながら躍起《やつき》となツて叫ぶ。
「ま、貴方《あなた》も大概《たいがい》にしときなさいよ。私は貴方《あなた》の體の虚弱なことや氣難《きむづか》しいことを惡いとも何《な》んとも謂《い》ツたのぢやありません。ただ貴方《あなた》が家《うち》が淋しくツて不愉快だと仰有《おつしや》ツたから、それは誰の故《せい》でもない、貴方《あなた》御自身の體が惡いからと謂《い》ツたまでのことなんです。男らしくもない、弱い者いぢめも好《い》い加減《かげん》になさるものですよ。」とブツ/\いふ。其の態度が奈何《いか》にも冷《ひやゝか》で、謂《い》ふこともキチンと條理《でうり》が立ツてゐる。
俊男は其の怜《さ
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