か》しい頭が氣に適《く》はぬ。また見たところ柔和《にうわ》らしいのにも似ず、案外《あんぐわい》理屈《りくつ》ツぽいのと根性《こんじやう》ツ骨《ぽね》の太いのが憎《にく》い。で、ギロリ、其の横顏を睨《にら》め付けて、「然《さ》うか。それぢやお前は、俺《おれ》は馬鹿でお前が怜悧《れいり》だといふんだね。宜《よろ》しい、弱い者いぢめといふんなら、俺《おれ》は、ま、馬鹿になツてねるとしやう。俺《おれ》の方が怜悧《れいり》になると、お前は涙といふ武器で俺を苦しめるんだからな。雖然《けれども》近《ちか》、斷《ことは》ツて置くが、陰欝《いんうつ》なのは俺の性分で、書《しよ》を讀むのと考へるのが俺の生命だ。丁度お前が浮世《うきよ》の榮華《えいぐわ》に憬《あこがれ》てゐるやうに、俺は智識慾に渇《かつ》してゐる………だから社交も嫌《いや》なら、芝居見物も嫌さ。家を賑《にぎやか》にしろといふのは、何《なに》も人を寄せてキヤツ/\と謂《い》ツてゐろといふのぢやない。お互《たがひ》の間《なか》に暖《あつたか》い點《とこ》があツて欲しいといふことなんだ………が、俺《おれ》の家では、お前も獨《ひとり》なら、俺も獨《ひとり》だ。お互に頑固に孤獨を守ツてゐるのだから、從《したが》ツてお互に冷《ひや》ツこい。いや、これも自然の結果なら仕方が無い。」
「何故《なぜ》お互に獨《ひとり》になツてゐなければならないのでせう。」
「色が違ふからさ。お前は紅《あか》い、俺は青い。」
「それぢや何方《どつち》がえらいのでせう。」
「そりや何方《どつち》だか解《わか》らんな。何方《どつち》でも自分の色の方にした方がえらいのだらう。」
「恰《まる》で喧嘩《けんくわ》をしてゐるやうなものですのね。」
「無論|然《さ》うさ、夫婦といふものは、喧嘩をしながら子供を作《こさ》へて行くといふに過ぎんものなんだ。」
「では私等《わたしたち》は何《ど》うしたのでせう、喧嘩はしますけれども、子供は出來ないぢやありませんか。」
「恐らく體力が平均しないからだらう。お前からいふと、俺《おれ》が虚弱《きよじやく》だからと謂《い》ひたからうが、俺からいふとお前が強壯《きやうさう》過《す》ぎると謂《い》ひたいね。併《しか》し他一倍《ひといちばい》喧嘩《けんくわ》をするから可《い》いぢやないか。夫婦の資格は充分だ………他人なら此樣《こん》なに衝突
前へ 次へ
全12ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三島 霜川 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング