、お前、何處《どこ》へ行くんか。」
 豈夫《まさか》に螢狩とにも謂《い》へぬから、どぎまぎ[#「どぎまぎ」に傍点]してゐると、
「何か、また螢を捕《つかま》へに行くんぢゃな。」
 的中《てつきり》星を指《さ》されて、自分は忸怩《もじ/\》しながら、默ツて垂頭《うつむ》いてゐた。
 お祖父《ぢい》樣は被蔽《おつかぶ》せて、「それなら、もう止せ、止せ! 幾ら捕へて來たツて、螢といふ奴は、露を吸ツて生《い》きてゐる蟲だから、明《あす》の朝日が出ると、みんな消えて了《しま》うのだ。」
 此《か》うまで謂《い》はれては、自分は默ツてゐる譯《わけ》に行かない。で、
「いゝえ、お祖父樣《ぢいさん》、私は螢を捕《つかま》へに行くのでは無いのです。つい其處《そこ》まで…… あの、お隣家《となり》の太一さんの許《とこ》まで行くのです。」
「嘘《うそ》を吐《つ》け! ハ……。」とお祖父樣《ぢいさま》は、さも面白さうに、併し何か底に意味があるやうに笑ツて、
「其樣《そん》な嘘《うそ》を吐《つ》くもんぢやない。お祖樣《ぢいさん》は能く知ツてゐるぞ。其の螢籠は何《な》んだ、」失敗《しま》ツた! 自分は螢籠を片手に
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