行くんだらう。逃《に》げるツたツて、逃口《にげぐち》が閉《ふさ》いであるのだから、其樣な事は無い筈《はず》だ。」
と思ツて種々《いろ/\》と考へて見たけれども、何《ど》うも解らなかツた。それで、
「螢といふ蟲は、籠の中へ入れて置くと、溶《と》けて了うのかしら?」
とも思ツてゐた。何しろ前の晩には一生懸命になツて捕《つかま》へて來たのだから、朝眼が覺《さ》めると直ちに螢籠の中を檢《しら》べて見たが、何時《いつ》の朝だツて一匹もゐた事が無い。で、隨分がツかり[#「がツかり」に傍点]もした。けれども捕《つかま》へる時の愉快な味が忘れられなかツたので、骨折損も充《つま》らないもあツたもので無い。自分は毎夜のやうに、螢征伐に出掛けた。
或る晩の事、自分は相變らず、密《そつ》と家《うち》を脱出《ぬけだ》して、門の外まで出ると、
「おい、新一や、新一ぢゃないか。」
と呼止《よびと》める人がある。不意だツたから、自分はびツくり[#「びツくり」に傍点]して、
「だアれ……」と闇を透《すか》して見てゐると、
「私《わし》さ。」と確にお祖父樣《ぢいさま》の聲である。
「あツ……お祖父樣。」
「然《さ》うだ
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