[#「どきりツ」に傍点]とするやうな事が妄《むやみ》とあツた。また偶時《たま》には、うツかり[#「うツかり」に傍点]足を踏滑らして、川へ陥《はま》り田へ轉《ころ》げ、濡鼠《ぬれねずみ》のやうになツて歸ツた事もあツたが、中々其樣な事に懲《こり》はしない。自分は、螢の頃にさへなると、毎晩水の郷《さと》をうろつい[#「うろつい」に傍点]て夜《よ》を更《ふ》かしてゐた。
そこで自分は、此の螢狩に就いて一つの談《はなし》を持ツてゐる。それは不思議な事柄として、永い間……大人《おとな》になツても尚《ま》だ譯の解《わか》らぬ疑となツてゐたので。前にも謂ツた通り、螢の出る季節《とき》にさへなると、自分は毎夜螢狩に出掛けて、必ず百匹位ゐ螢を捕《つかま》へて來た。ところが此の螢が一匹として、一晩と螢籠の中にゐて呉れなかツた。次の朝までには皆何處へか消えて了ツて、螢籠の中には草の葉だけが殘ツてゐて、其の骸《なきがら》さへ無かツた。
「何《ど》うも不思議だ」
自分は、此樣な不思議な事は無いと思ツてゐた。
「何《ど》うなツて了《しま》うのだらう、豈夫《まさか》消えて了うのでも無からうけれども、何處《どこ》へ
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