い痩《やせ》ツこけた白髮の老人が、のツそり[#「のツそり」に傍点]と立ツてゐるのであツた。螢の薄光で、微《ほのか》に見える其の姿は、何樣《どん》なに薄氣味《うすぎみ》惡く見えたろう。眼は妙に爛《きら》ついてゐて、鼻は尖《とが》ツて、そして鬚《ひげ》は銀《しろがね》のやうに光ツて、胸頭《むなさき》を飾ツてゐた。
「お前さんは誰です。」と、自分は、おツかなびツくら[#「おツかなびツくら」に傍点]で訊《たづ》ねた。
「私《わし》かえ、私はの、年を老《と》ツた人さ。」と、底意地の惡さうな返事をして、自分の頭を撫《なで》て呉れる。其の聲は確《たしか》に何處《どこ》かで聞いたことのあるやうな聲だ。
自分は首を傾げて考へて見た。直ぐ足下《あしもと》には、小川が流れてゐたが、水面には螢の影が、入亂れて映《うつ》つてゐる。
「おゝ! 奇麗だ。」
と自分は熟《じつ》と流を見詰めると、螢の影は恰《まる》で流れるやうだ。
「何《ど》うだ、奇麗だらう。」と白髮の老人はさも自慢さうにいふ。何うも、其の聲は聞覺があるやうに思はれてならない。併し何《ど》うしても、誰の聲であつたか解《わか》らなかった。何處《どこ》か
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