光では無い。螢の光だ。
「大變な螢だ。」
と思はず知らず叫んで、びツくり[#「びツくり」に傍点]したといふよりは、呆《あき》れ返《かへ》ツて見てゐると無量幾千萬の螢が、鞠《まり》のやうにかたま[#「かたま」に傍点]ツて飛違ツてゐる。それに此處《ここ》の螢は普通の螢の二倍の大きさがある。それで螢の光で其處《そこ》らが薄月夜のやうに明いのであツた。餘り其處らが明いので、自分は始《はじめ》、夢を見てゐるのでは無いかと思ツた。餘り其處《そこ》らが奇麗なので、自分は始、狐に魅《ばか》されてゐるのでは無いかと思ツたけれども自分は、夢を見てゐるのでも無ければ狐《きつね》に魅《ばか》されてゐるのでも無い。確に正氣で確に眼を覺まして、其の螢を眺めてゐた。餘り美しくて、餘り澤山ゐるので、頓と捕《つかま》へて見やうといふ氣も起らない。自分はうツとり[#「うツとり」に傍点]として、螢に見惚《みと》れてゐると、
「おい、お前さんは、此處《ここ》へ何しに來たのだ。」
と突如《だしぬけ》に後《うしろ》から肩を叩くものがある。びツくり[#「びツくり」に傍点]して振返ると、夜目だから、能《よ》く判《わか》らぬが、脊の高
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