殘した金も滅茶々々になつて、僕は市井の間に埋つて了つた。
で、父から遺産どころか、荷厄介な遺族を殘されて、未だ力のない者が、其重荷を負ふてよた[#「よた」に傍点]/\と今迄遣つて來たのである。
それで、父に死別れたのは二十の時で、僕は神經衰弱になるし、不得要領の中に、一年と云ふ長い月日を滅茶苦茶の中に送つて了つて、そして二十一二の春ころまでは、書くでもなく、書かぬでもなく、貸してあつた金を取つたり、家財を賣つたり、誠に混沌たる生活をした。其間田中凉葉なぞと一緒に下宿したが、其中凉葉は紅葉先生の塾に行くし、僕は一人になつてごろツちやらして居たが、それではごろつき[#「ごろつき」に傍点]書生になると云ふので、叔母なぞが心配して、其一年ばかり前から心易かつた桐生悠々君の所へ行くことになつた。
桐生君は、僕の文學生涯には忘れることの出來ない人で、其所に行くまでは文學が好きであつたが、唯、意味も何も知らずバツとして居た。其時桐生君は法科の二年であつたが、始終シエークスピーヤだとか、トルストイなぞを説いた、僕はそれに依つて泰西の文學を知り、眞面目に文學を研究し眞面目な意味に文學を了解して來て
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