資の方の心配もなく、漸く安心して間もなく、恰度其手紙が來てから二週間も經つと、突然親父が病氣だと云ふ報知が來て、驚いて取るものも取り敢へず歸國して見ると親父は死んで居る。僕も、實にがつかり[#「がつかり」に傍点]してしまつた。
手紙には書いてなかつたけれ共、家の者の話に依ると、親父は僕を愈々文學者にすると決心してから、從來自分の方針を一變して、家政の改革をなし、建てかけて居た家なども中止し、僕の爲めに犧牲になつて、大いに金を溜め、僕の卒業後は獨逸にでも留學させやうと云つた意氣込みで、自分のアツビツシヨンを僕に濺いで、文學の方面に大いに發展させるやうに決心して居たとの事である。
僕が之れまで、自分の目的に趺蹉に趺蹉を來し、幾度びか斷然吾が志を抛たんと欲して、抛ち得ざるものは、親父の決心を思ふと、僕は飽くまで此の目的を貫徹せなければ生きてはゐられないと、奮然として勇猛心を起すが常だ。これ全く親父の賜である。
親父は死ぬるし、親族には文學なぞの分る連中はない。皆口を揃へて醫者になれ/\と口やかましく勸める、其四面楚歌の聲の中に立つて、一年ばかりぶら/″\して居る中に、親父の建てた家も、
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