る。が、前に擧げたもの程、敬意を持つて讀まなかつた。出京後無論國からは送金をして呉れないので、其當時、僕の下宿生活は實に慘憺たるものであつた。九月に出て來て袷一枚で其冬を越したくらゐである。それで[#「それで」は底本では「それて」]、時時悲しいやうな抒情文のやうなものを書いて親父に送り、眞面目に修養すると云ふことを繰り返して云ひ、暗々の中に金の保護を仄めかした。然んな手紙を二三度も送つたが、無論何の効果もなかつた。
然う斯うする中に翌年の四月、國から義理の叔父が出京して、親父の長い/\手紙を持つて來た。先に送つた僕の悲しいやうな抒情文が父を動かしたのか。或は其抒情文に依つて多少僕の文學的の才を認めてくれたのか、文學者たることを許してくれたと同時に、當座の小遣ひとして金を十圓だけ托送して呉れて、後は月々正式に送ると云ふことである。そして、親父の其手紙に依ると、早稻田にでも入つて、眞面目な修養をなし、文壇に雄飛して呉れいと云ふことである。其時、手紙の中に、其頃毎日新聞に出た、文學者になるの苦しいこと、其生活の困難なことなど書いた論文を切り拔いて同封してあつた。
親父も許して呉れるし、學
前へ
次へ
全10ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三島 霜川 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング