して今度は相應な醫者にしやうと決心したものである。それで、何うしても文學者になることを許さない。そして僕の希望を否定するのに、お前にはとても文學者になれる腦力はない。文學者として世に立つて行くには、大家になれば別だが、生活が中々困難である、お前のやうな意志の弱い人間には、到底大家になれる望みはないと云ふので、何も文學其物を否定するのではなかつた。
 然し、僕は何うしても文學志望を斷念して、親父の希望通り醫者になると云ふ決心も出來ずどちら付かずに生若い人間が、毎日ぶら/\して居る。で、家では親父初め餘り好遇しては呉れなかつた。自分の意志は通らず、家では侮辱を加へられる。面白からぬ日を送りながらも、文學者になりたいと云ふ希望は益々強くなるばかりで、消えやうともしない。それで、折りを見ては許して呉れるやうに頼んだものである。
 所が、親父も終ひには、僕の意志を飜すことが出來ないと思つたものか、遂々許すには許したが、それ程文學者になりたいなら勝手になるが好い。俺れは其爲め一文も學資を出さぬから、お前はお前の力で遣れと云つたやうな、皮肉な許しであつたので、少しは悄氣《しよげ》たが、それでも好きな
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