、この街の公然の噂だった。
 強盗に反抗した亭主は、短刀の一撃で胸を抉ぐられて、金庫にしがみついたまま即死した。***店員たちが縛りあげられた、その眼の前で女房を強姦し[#「女房を強姦し」に「×」の傍記]その上五千円近い金を掠奪された。
 店員や女房の証言で、その犯人は日本人であることに間違いはなかった。犯人は踪跡をくらまして、まだ逮捕されなかった。
 乾干になって、もうここ一二日の生命が危いくらい弱り抜いていた左官に時計屋は、寝たきりなので、その事件を知る筈がなかった。
 領事警察の刑事隊が、変装して用心深く小半日も張り込んだ結果、とっつかまえた代物は、自分で自分の身体さえ支え切れないほど弱りこんだ、この二人だった! この左官に時計屋が、強盗殺人強姦の犯人であるとは――何んと立派な手柄であることか!

 坊主は黒い門柱から、無料宿泊所の看板をひっぺがした。そしてまるで土方のように、それを踏み破った。
 こんな慈善ぶった看板で金を強請ろうとかかったことが、そもそもの誤りなのだ。
 お天んとうさまに唾を吐いて見ろ! そっくりそのまま手前の坊主面に戻って来るんだ。
[#地から1字上げ]――
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