少しも不思議ではない。腹が減って仕方がなくなると、誰にしたって夜鷹のように餌を拾いに出掛けなければならない。だが――一つ驚いたことに、大連のかわりに、黒眼鏡がすぐ傍で、大安坐《おおあぐら》をかいて、黒パンの大きな塊りを片腕に抱え込んで、それを襤褸巾《ぼろきれ》のように引き裂いて、豊かに頬張っていた。
左官は頬ペタから、骨が抜け出るほど青くなって、そのまま縮んでしまった。
「おい! 若いの。眼が醒めたか?……ところでお前は馬鹿だな。何んで昨日は俺にむかって来たのだ」
そら! 左官はまるで針鼠のように震えあがってしまった。黒眼鏡は唾の足りない口から、パン屑をぼろぼろこぼしながら、ゆっくり責め抜こうとするのかも知れない。
「時計屋はな。お前。魂のかわりに、こんどは骨ぐるみさらって行かれそうな声をたてて***********おとなしく待ってらあ、手前にも*********有りつかすんだったのに! 馬鹿だなあ」
左官は驚いた。こんな筈である道理がない! 彼はそろそろ首を伸ばした。
黒眼鏡は何んとも思ってはいないのだ。かえって彼のあの気狂い染みた突嗟の気持を、まるで憫笑しているのだ。でも、
前へ
次へ
全31ページ中25ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
里村 欣三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング