札つきの『金スジ』だった。それにまだ懲りずに、彼奴はそのやくざを自慢の種にして、この人生を金テコでぶちのめすような滅茶な調子で、押しまくって生きようとするのだ!
その日は暑かった。太陽がカッと照らしつけている表へ、女の毛を投げ出せば『じじッ』と燃え上ってしまいはしないかと思われるほどだった。
若者は何処をほうついても仕事がなかった。それで彼は飢え死する覚悟を決めたような悲痛さで、癇癪腹をかかえて宿泊所に舞い戻ってはね転がった。すると、時計の直しが見つからないで剛腹をかかえ込んだ、糜《ただ》れた脂っぽい眼付の男も、同じように樫の木のように固たそうな脛を投げ出して寝転んでいた。
そうだ。若者が流れ込んだ時に、この虱を潰していた男は時計屋だった。
この男は時計の修繕を拾いながら、それで世界を流して歩こうと云う、また滅相もない野望をもっているのだ。この時計屋の話によれば、可愛いい女房が、のびたうどん[#「うどん」に傍点]みたいになって、あの世へくたばった日から、店を畳んでしまって、その途徹もない野心を、学生鞄のなかにネジ廻しや、人形の靴みたいな金鎚と一緒くたに納い込んで、もう五年この
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