。とどのつまりは、やはり人にコキ使って貰って生きなければならない勘定になる。他人をコキ使おうッて奴には虫の好く野郎は一匹だってない。そこでまた俺は放浪する。食うに困るとまた就職する。放浪する、就職する、放浪する、就職する………無限の連鎖だ!
 ――生きるためには食わなければならぬ。食うためには人に使われなければならぬ。それが労働者の運命だ。どこの国へ行こうとも、このことだけは間違いッこのないことだ。お前ももういい加減に放浪をやめて、一つ土地で一つ仕事に辛抱しろ。どこまで藻掻《もが》いても同じことだ――
 と、友達の一人は忠告した、俺もそうだと思った。――だがしかし俺にはその我慢がない。悲しい不幸な病である。俺はいつかこの病気で放浪のはてに野倒《のた》れるに違いない。

 ふと、気がついてみると、女は固い木椅子に腰かけていた。言葉で云っても解らないので、俺が出て行くのを静かに待っていたのであろう。俺は考えた。多くもありもしない金だ。どのみち今日一晩に費い果して明日から路頭に迷うのも、また二三日さきで路頭に迷うのも同じ結果だ。同じ運命に立つなら、寧《むし》ろ一日も早く捨身になって始末をつけ
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