って、眼をつむった。――
 眼をひらくと、女はうつ伏して嗚咽《おえつ》していた。俺は何とも云えない可憐な気持に打たれた。女を抱き起して、唇を与えた。
 女は涙の眼を微笑んで、………………。俺は淫売の稼業を思った。
 内地である女郎屋へあがった時、俺の対手《あいて》に出た妓《おんな》は馬鹿に醜かった。俺はヤケを起してその女に床をつけなかった。と、ヤリテ婆が出て来て、
 ――あんたはん、この妓《こ》に床をつけてやっておくんなはれ、でないと女郎屋の規則としてお金とる訳に行きませんよって――
 と、泣かんばかりで妓を庇護したことがある。そのかたわらで、醜い顔の女が、寒むそうに肩をすぼめて泣いた。
 俺はそれを思った。俺はかつてゴム靴の工場で働いたことがある。一日中、重い型を、ボイラーの中に抛り込んだりひきずり出したりして一分間の油も売らず正直に働いた。そしてその上に、馘《くび》になるまいと思ってどれだけ監督に媚びへつらったのだったか! 淫売婦と俺のシミタレ根性との間にどれだけ差違があろう。俺も喰わんがためには人一倍に働いて、しかもその上に媚を売っている。浅薄なる者よ――俺の心が叫んだ。
 俺は
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