答えずに、俺をひき寄せてみんなの前でチュウと唇を吸った。
女達は口々に囃《はや》したてて笑った。俺は一足とびに寝室のベットを目蒐《めが》けて転んだ。……
女は俺が厭がるのに無理やりに服をぬがせて………。黄色く貧弱な肌が、女のにくらべてひどく羞しい気がした。女は笑って、俺の汗臭い靴下を窓に捨てた。窓には、芽をふいた青い平原が白い雲を浮游させて、無限の圧迫を加えていた。
陽はまだ高かった。
俺は放浪の自由を感じて、女の胸に顔をうずめて、やわ肌の甘酸ぽい匂いを貪《むさぼ》った。
顔をあげると、女は何か言ってひどく笑いくずれた。俺はキョトンとして女の笑い崩れる歯ぐきに見とれた。女は二三度その言葉を繰返したが、俺が、キョトンとしているので、しまいにはジレて荒ぽく俺の顔をつかんで唇を押しつけた。
俺は何のことか解らなかった。女は暗い顔をして、俺をみつめた。
俺は女の眼をさけて、窓をみた。言葉の通じない悲哀が襲って来たのだ。――
と、涯《はて》しのない緑の平原と雲の色が、放浪の孤独とやるせなさにむせんで見えた。俺は吐息《といき》をついて女をみた。
女はブラインドをひいて、窓の景色を
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