あくる朝、鶏に棚の上から糞をヒッかけられて眼を覚ました。苦力頭が、棒切れで豚のように寝込んでいる苦力どもを突き起して廻った。あちらこちらで大きな欠伸《あくび》がして、どやどやと皆起き出た。
 苦力頭の女房らしいビンツケで髪を固めているような、不格好な女がマントウやら葱《ねぎ》やら唐黍《とうきび》の粥《かゆ》のようなものを土器《かわらけ》のような容れものに盛って、五分板の上に膳立てをしていた。そして頻《しき》りに俺を睨みつけた。
 苦力頭は、鼻もヒッカケない面付《つらつき》で俺を冷たく無視した。苦力達がさんざ朝飯を食い始めたが、誰も俺にマントウの一片《ひとかけ》らも突き出そうとしなかった。俺は喰えというまで手を出すまいと覚悟した。
 皆がシャベルやツルをもって稼ぎに出だしたので、俺も一本担いで後に続いた。誰も何んとも言わなかった。
 仕事は道路のネボリであった。俺はシャツ一枚になってスコを振った。腹が減って眠が眩みそうであったが、一日の我慢だと思ってヤケに精を出した。苦力達は俺の仕事に驚いた。まさか日本人に土方という稼業はあるまいと思ったに違いない。支那に来ている日本人は皆偉そうぶって
前へ 次へ
全19ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
里村 欣三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング