ぽいマントウに汚たない布片をもたげて手を出した。すると前にいた苦力が、獰猛《どうもう》な獣の吼《ほえ》るような叫び声を出して俺の手を払い退けた。
そうやられると、俺も無理に手を出しかねた。黙って佇んだ。苦力達は俺の顔を睨めつけて、何かペチャクチャと囁き合った。
やがて彼等は食器を片附けて、小屋のような房子《フワンズ》に引きあげた。俺もその後について行った。彼等と一緒に働こうと思ったのだ。俺が入ると、暗い土間のところでアバタ面の一際獰猛な苦力頭が、――何んだ! 何者だ――というように眼をむいて叫んだ。俺はびっくりして、一足二足あとへすさったが、また考え直してにやにや笑いかけて図太く土間に進んだ。俺はスコップで穴を掘る真似をして、働かして貰い度いものだという意味を通じた。が、苦力頭は俺の肩を掴かんで、外を指さした。出て行けというのだ。しかし俺は出て行くところはない。かぶりを振ってそこの隅にへタバリ付いた。
苦力頭は仕方がないとでも云うような顔で、自分の腰掛に腰を据えて薄暗いランプの灯で、ブリキの杯で酒を嘗《な》めはじめた。他の苦力達が、俺を不思議そうに寝床の中から凝視《みつ》めた。
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