たことを悔いた。畜生! 俺はこう心に叫ぶと、女を尻眼にかけて淫売宿をオン出た。
眼がさめると夕暮であつた。五月というのに薄寒かった。
俺は支那街の、薄汚い豚の骨や硝子《ガラス》のカケラの転がった空地に寝込んでいたのだ。さんざ歩きとばしたことだけが思い出せた。みると俺の周囲に得体の知れない薄気味の悪い支那人が輪になって、何か声高く饒舌《しゃべ》っていた。
――安心しろ、まだ野倒死はしないよ――俺はこう思って、笑った。支邦人の輪が遠のいた。腹の空いたことが解った。考えてみると淫売宿で三日三晩ろくすっぽ飯も喰っていなかった。――どうしよう――と、思ったが、扨《さ》てどうもすることが出来ない。言葉の解らない支那人を眺めて、つくづく悄気切《しょげき》ったものだ。腹の空いた真似をして、膝をたたいてみせたりすぼめてみせたりすると、支那人は手を叩いて笑った。
気がつくと、空地の向うに五六人の苦力《クーリー》がエンコして何か喰っていた。俺は立ちあがって、そこに行った。辮髪をトグロのように巻た不潔な野郎が、大きなマントウを頬張っているのだ。つい俺もその旨そうに喰っている様子に唾が出て、黙って黄色
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