俺が物心ついた頃、村の餓鬼が俺を「乞食の子」と呼んだ。俺は何よりもそれが悲しかった。泣いてその訳を母にせがんだ。母は隠しおえるものでないと知ってか、何時もとは違った正しい容子《ようす》で、
 お前のおふくろは確かに地蔵堂の縁の下で死んだのじゃが、どうしてどうして乞食どころかえ、放疲れこそはあったが若けえ立派な嫁御《よめご》であったぞえ。着ているもんでも、こがいな田舎では見られない綺麗な衣裳をつけえとったがのう。どこかの旦那衆の嫁御に違えねえのだが、何処の誰れであるかどがいしても知れなんだ。さぞ親御や旦那は捜していられるであろうが、それにお前という立派な男の子もあったのじゃけに――
 と涙ながらに打ち明けた。その時から母がおまき婆になった。父と思っていたのはアカの他人の百姓であった。
 俺はひがんだひねくれ者になつた。俺は愛のない孤児だと悟ったからだ! おまき婆は育て甲斐がないと失望した。幸四郎は飯の喰い方が悪いとか、働かないとか云って、事ごとに殴りつけた。
 俺は愛に渇した。十六で五つも年上の娘と恋に落ちた。そして村一統の指弾の的標《まと》になった。
 ――血は争えないものだ。お前のお
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