ふくろもお前と同じに肩あげのとれない内から不義に落ちて、お前を負ってこの村へ流れて来て地蔵堂の縁の下に野倒死《のたれじ》にしたんじゃ! 男の尻を追って行く途中か、それとも不義のお前という餓鬼をヒッて家に居たたまらず逃げ出した果てが、この地蔵堂の野倒死にか、どっちかまあ解らんが、子が子なら親も親じゃろうって――
 お牧婆は口を極めて俺を罵《ののし》った。俺は遂に十七の歳に村を捨てて遁げ出した。放浪がそれから始まった。だが俺はまだ母親のように野倒死にはしない。――世の中の人間は、誰れでも皆かならず二つの愛を所有している。父の愛と母の愛だ! 俺もついにそれなしには生きていられない寂しさを思う。
 俺の母親は中国の僻村《へきそん》で地蔵堂の縁の下に死んだが、父親はまだ何処かに生きて居るべき筈だ。おまき婆が言うように不義な恋から生みつけられた俺にしろ、父は父であるべき筈だ。俺は常に父親を思う――だが父親は俺を子と知らずに、世の中の人達と同じく俺を虐げてはいまいか。そして俺が考えるように父親は俺から遠く離れたところに居るのではなく、案外に俺の間近かで交渉のある人であるかも知れない――こう考えると遂
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