濛々と捲き起されて来る土煙に、刃疵のある顔をしかめながら土煙から抜け出るために、馬を先頭に馳せ抜けた。
 と、またしても高村の険しい声が聞えた。隊長は反射的に、馬をとめて振り返った。隊列は土煙に丸められて、はっきり見分けられなかったが、馬も車も動いていなかった。
 彼はまた再び、新らしい憤激に燃えあがって来る自分に我慢が出来なかった。…………
 乗馬は拍車にいきり立つと、土煙を力一杯にすくいあげて、斜な陽に鹿毛の毛並を躍らせた。
「どうしたんだ。高村!」
 隊長は遠くから怒鳴り立てて、跳び込んで来た。
「畜生共、横着なんです、また動こうとしないんです。――豚奴、こうして呉れる!」
 高村はいきなりこう叫ぶと、馬から跳びおりて、間近な苦力の横顔に乗馬鞭をふりおろした。苦力はきゃあ! と悲鳴をあげると、輜重車の積荷から転げ落ちた。
「さあ、野郎どうしても動かないというのか!」
 第二の鞭はぴゅうと唸りながら次の苦力に向かった。
「…………けえッ!」
 苦力は鞭の威嚇に肩を聳かして、車の反対側に跳びおりようとしたが、
「あッ……」
 と、悲鳴をしぼってのめり落ちてしまった。彼が跳びおりない間
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