くんだ。動け豚奴!」
隊長は羅刹《らせつ》のような憤激で、荒れ狂い怒りたけって、草むらに隠現した。馬の汗ばんだ腹には草の実がまびれていた。
「高村、高村! 動かん奴は撃て! 関まわぬから撃ち殺ろせ! 日本の軍隊を侮辱しとる」
隊長は怒鳴りまわった。が、彼は隊長からそう怒鳴りつけられない前から、逃げ惑う苦力の間に馬を突込んで、手あたり次第に、馬上から苦力の弁髪をめがけて殴ぐりつけ、はたきつけていたのだ。それのみか! そこでもかしこでも兵卒が振りかぶった銃床に、彼等は追いまくられていた。
この暴力の前には、彼等はどうしようもなかった。
「車に乗れ! 車につくんだ!」
隊長は馬を飛ばして、怒鳴りまくった。苦力達は渋々と輜重車に這いあがった。そして彼等は手綱をさばいて、頭の上で長い革鞭をふりまわしながら、八頭立ての馬にかわるがわる口笛とともに、革鞭の打撃を加えた。
隊列は整った。輜重車は一斉に、ゆるゆると凹凸の路に土煙を捲きながら、再び軋み始めた。
「態《ざま》を見ろ! 貴様等がいくら意地張ろうとも、どうにもなるもんじゃないのだ。」
隊長は埃と汗まびれの顔をやけに拭った。そして再び
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