うのない騒々しさと、困難を捲き起し、煽りたてて、しかもそれが出発以来蜒々と続いているのであった。
 隊長は堪まらないと思った。憂欝でならなかった。
「一体、何のために、かような奥地にまで踏みこむのだ。」
 彼は少しも司令部の作戦が腑に落ちなかった。彼も、また彼の本隊も戦争という戦争には、まだ一度も出喰わしてはいなかった。そして彼は、この出兵にまつわる熾烈な敵がい心を、不思議にも感じられなかった。何者にか、必要もないのに無理矢理に、この土煙のなかを引きずり廻わされているのだ! たったそれだけなのだ。彼はその理由を、軍人らしい単純さで政府の軟弱外交に持って行った。だが、隊長は複雑に考えることの嫌いな、短気な性質だった。で、彼はそんな憂欝な思案に、やり切れないまどろしさを感じた。で、またしても話題を「その女」に陥し込んで行った。
「どうだ。高村、その女はまだいるのか」
「は、いますとも。是非ひとつN市へ着けば御案内させて頂きますか」
 彼は狡猾そうに、眼を細めて笑った。
「は、は、はあ。それには及ばんがね。」
 隊長は額の汗をふき取った。「まったく面白い女じゃ。K将軍を誘惑するとは面白い話じ
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