られるということである。人間は作られたものでありながら、独立なものとして、みずから作ってゆく。人間が作るのは、みずからも創造的なものとして、世界が世界を作るのに参加することである。人間は形成的世界の形成的要素である。我々が作るのは、世界が世界を作ることにおいて、そのうちに、作ることである。それ故に我々の行為は、我々の為すものでありながら、我々にとって成るものの意味をもっている。行為は同時に生成の意味をもっている。行為が出来事の意味をもっているのは、これに依るのである。人間の行為は世界における出来事であり、かようなものとして歴史的である。歴史とはもと出来事を意味している。主体的立場は歴史的立場であり、世界史的立場でなければならぬ。
かようにして哲学が主体的立場に立つというのは、要するに、現実の立場に立つということである。真に現実といわるべきものは歴史的現実である。人間は歴史的世界における歴史的物にほかならない。我々の一切の行為は、経済的行為の如きものであろうと、芸術的行為の如きものであろうと、或いはまた科学的研究の行為の如きものであろうと、すべて歴史的世界においてあるのである。主体的立場は行為の立場であるといっても、主知主義を排して主意主義を取るというが如きことを意味するのではない。行為の問題は、主観主義の哲学において考えられる如く、単に意志の問題ではない。いかなる物であろうと、物を作るということが、行為の根本的概念である。人間のあらゆる行為は制作の意味をもっている。それはすべて技術的なものであり、知識的でなければならぬ。主体的立場は形成的人間の立場であるが、人間は歴史的世界において形成されて形成するのである。歴史とは出来事であり、それは行為が同時に生成であることを意味している。従って行為の立場といっても、主観主義的な、いはゆる行動主義の如きものではない。我々の行為はつねに歴史的に限定されている、言い換えると、それは主観的・客観的なものである。主体的立場というのは単なる主体の立場でなく、却って主体を超えた主体の立場である。人間は「超越的人間」である、超越によって人間は人間であり、人間の一切の作用は可能になる。けれどもそれはいわゆる超越的意識或いは先験的意識と混同さるべきでなく、人間はその全体の存在において超越的であるのである。しかも超越的とは、世界の外にあるということでなく、却って「世界」に関係付けられているということである。そして主体と客体とが抽象的に対立するのでないように、超越は同時に内在であり、内在的超越であると共に超越的内在である。かようにしてまた、哲学は対象的認識でなく場所的自覚であるといっても、その主体的な見方は客観的な見方に媒介され、これを内に含むのでなければならぬ。場所的自覚とは現実の中で現実を自覚することである。
ところで科学の主観もすでに行為的であった。科学も行為の立場を予想するにしても、それを主体的に自覚してゆくということは、科学のことではない。科学は世界をどこまでも客観的に見てゆくのである。その主観が行為的であるのも、客観的知識に近づくためであった。科学の与えるのは世界像であって世界観でなく、しかるに哲学の求めるのは世界観である。世界像は客観的な見方において形作られるものであるに反して、世界観は主体的な見方において形作られるのである。前者は世界の対象的把握であり、後者は世界の場所的自覚である。世界観は科学よりもむしろ常識のものである。常識は行為的知識として、論理的反省を経ていないにしても、或る世界観をもっている。日常の生活において我々は多くの場合、常識的世界観によって生活している。格言や俚諺の如きものは、かような常識的世界観を言い表わしている。世界観は世界の主体的な自覚である故に、そこには情意的な見方の含まれるのがつねである。哲学において知るものは人間の全体的存在である、哲学は「全体的人間」の立場に立っている。自覚はあらゆる作用がそれによって可能になる超越と一つのものとして、意識の作用のうちの一の作用に過ぎぬものでなく、むしろ「作用の作用」として、そこでは悟性も感情も意志も結び付くことができる。世界観は我々の知的要求と共に我々の情意的要求を満足させるものでなければならぬ。常識が哲学に求めるのはかような世界観である。そして常識が哲学に対して知識や理論よりも哲学者とか賢者とかという人間理想を求めるということは、哲学を行為的知識として理解しているからである。哲学は生の立場に立つことにおいて常識と同じである。しかしながら哲学はまた学でなければならぬ、それは飽くまでも論理的でなければならぬ。哲学は学の要求において科学と同じであり、科学の媒介が必要である。科学の客観的な見方は哲学の主体的な見方に対立するが、かよう
前へ
次へ
全56ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三木 清 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング