と称した。自己意識は主体の自発性の意識である。「意欲は精神の単純な、純粋な、瞬間的な作用である、それにおいて、もしくはそれによって、この知的にして能動的な力は外部に現われ、且つ自己自身に内面的に現われる」、とまたメーヌ・ドゥ・ビランが記しているように、行為は外部に表現されると共に内部に表現される。かように二重の表現を有するということ、単に外に現われるのみでなく同時に自己自身に内面的に現われるということが、主体の特徴である。人間は外的人間であると共に内的人間である。行為は外に経験されるのみでなく内に経験される。経験を外的経験とのみ考えたところに、いわゆる経験論の制限があった。外的感覚のほかに、メーヌ・ドゥ・ビランのいったような内的感覚がある。人間は自覚的存在である。自覚的なものであって真の主体であり、自覚によって真に主体の主体性は成立するのである。
この自覚の意味は一層厳密に考えられねばならぬ。自覚というのは自己が自己を知ること、自己が自己を意識することである。しかしながら自覚の意味は単に自己が自己を意識するということに尽きるのではない。自己は自己を振返って見ることができ、この振返って見る自己を更に振返って見ることができる。かように自己は無限に自己を反省し得るというのは重要な事実であるけれども、もしそれが単に意識の内部において自己が自己に関係付けられることに過ぎないとすれば、それは純粋に内在的なことになってしまう。もしそれが純粋に内在的なことであるとすれば、何故にそれが、少くとも行為にとって、重要な関係をもっているのか、理解し難いであろう。自己が自己を知るという自覚の意味は、自己が自己を超えるということでなければならぬ。自己が自己を超えるというところに自己が自己を知るということもあり得る。自覚の事実は人間存存の超越性によって可能になるのであり、そこに真の主体性が成立するのである。自覚というのは単に自己が自己を知ることでなく、自己が自己を知ることに即して自己の根拠であるものを知ることである。もし自覚が単なる自己意識に過ぎないとすれば、その内容は単に自己であり、またそれはただ意識に関することと考えられ、かようにして自覚を基礎とする哲学は、従来しばしばそうであったように、内在論或いは意識哲学に終ることになる。それは自覚の事実がこれまで主として知識とその主観の問題の見地から見られたことにも関聯している。自覚の事実も行為の立場において捉えられねばならぬ。自覚の内容は自己であると同時に他者であり、そして自覚は単に意識に関わるものでなく、存在に関わるものである。単なる自己反省でなく、自己への反省が同時に他者への関係付けであるというところに、自覚の本質がある。他者とは自己の存在の根拠であるものを指している。伝統的な哲学の考えた如く、現実的存在においてはその存在と存在の根拠とが区別され、自己の存在の根拠が自己の存在に超越的であるということが現実的存在の根本的規定であるとすれば、人間に固有なものといわれる自覚は、自己の存在の根拠の意識であるのでなければならぬ。単なる自己意識でなく、自己意識が同時に根拠の意識であるというところに自覚の本来の意味があり、その根拠の意識によって自己意識も成立するのである。自覚は超越によって可能になるのであって、主体的とは、単に主観的ということでなく、却って自己の存在の根拠を自覚し、これと内面的な関係を含むということである。自己意識としての個人的自覚は人格の認識根拠となるにしても、その存在根拠であることはできぬ。しかも我の存在の根拠であるものは、同時に汝の存在の根拠であることなしに、我の存在の根拠であることもできない、我は汝に対して初めて我であるから。我々は我々の存在の根拠であるものから社会的に限定されてくるのである。かような存在の根拠が最も深い意味における世界にほかならない。主体的立場というのは個人的立場でなく、社会的立場であり、世界的立場を意味している。この世界は客観としての世界ではない。客観としての世界においては、主体である人間はその場所をもたない。見られた自己はその中に入っているにしても、見る自己はそれに対して何処か外にあると考えられねばならぬ。しかしながら、「世界は深い」とニーチェもいった如く、世界は主体である人間を内に包み、これを超えて深いのである。主体がそれにおいてある世界即ち絶対的場所は、どこまでも主体的なものでなければならぬ。それは主体である人間がそれに対しては客体と考えられるような主体である。それは「既に」そこにある世界でなく、却っていわゆる世界がそれにおいてある世界であり、真の現在である。哲学は対象的認識でなくて場所的自覚である。人間は世界から作られる、世界は創造的世界である。創造とは独立なものが作
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