ようとする心が真の哲学の根柢として尊ぶべきものであることを知っている。彼らは語られる真理よりも語られざる真理をさらに重んずる。ただ悲しいことには彼らは論理的な思弁に短であるがために彼らの清く深い体験を概念的に組織し統一する力を欠いている。けれど彼らの正しき心は、「自己の能うことはどこまでも研究し、自己の能わないことは静かに尊敬する」ことを心得ており、正直と無邪気とを失うことがいかに悪いことであるかを知っておるから、彼らは自己の魂とともに他人の魂をも高めることができる人々である。教えようとしない心は最もよく教うる心である。へりくだる心は最も鋭く人に迫る心である。いかにも彼らの哲学は論理の厳密と連絡の緊密とを欠いているであろう。けれどもそれらのすべてにかかわらず、彼らの哲学はふしぎに人を感動させずには措かないものをもっている。規則正しい序列を作って寄せて来る数限りない波よりも突然の風に天に冲するばかり高まった唯一つの波がいっそう速にまた確実に巌を砕く力を具えているのである。
 真に偉大なる哲学者とは、私が上にあげた二つの条件を円満にして高き程度の調和において兼ね具えた人に与えらるべき名であ
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