の問題ではなくして心情の問題である。過去の生活の精算をするというのが主要なことであって、その精算書を作るや否やは畢竟《ひっきょう》従属的な、いわば方便上のことである。よき仕事を為《な》そうというのではなくして、それへの正しき準備をなすのである。あるいは結果を求めるのではなくして、結果への道を拓《ひら》くのである。よき魂を作ること、さらにはよき魂となることが私たちに最も大切な仕事であることを知っている人は、過去の生活や思想や感情のまとまらない精算が正しく行われるときには、決して断片作者を作りはしないことを確信するであろう。私はいま以上の二点についてたぶん間違っていない考えを得たように思うから、これから私は大胆にそして正直に私の仕事に向わなければならない。
二
語られる哲学においてと同じように、語られざる哲学において大切なことは、正しき問い方(Fragestellung)をすることと正しき出発点をとることとである。正しき問い方をなさないものは決勝点を見定めておかないで、かってな標的に向って走る選手のようなものである。彼のすべての努力は単に疲労をもたらすばかりであって、とうて
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