ハイデッゲル教授の想い出
三木清

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)惹《ひ》いた
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 私がハイデルベルクからマールブルクへ移ったのとちょうど同じ頃にハイデッゲル氏はフライブルクからマールブルクへ移って来られた。私は氏の講義を聴くためにマールブルクへ行ったのである。
 マールブルクに着いてから間もなく私は誰の紹介状も持たずにハイデッゲル氏を訪問した。学校もまだ始まらず、来任早々のことでもあって、ハイデッゲル氏は自分一人或る家に間借りをしておられたが、そこへ私は訪ねて行ったのである。何を勉強するつもりかときかれたので、私は、アリストテレスを勉強したいと思うが、自分の興味は日本にいた時分から歴史哲学にあるのでその方面の研究も続けてゆきたいと述べ、それにはどんなものを読むのが好いかと問うてみた。そこでハイデッゲル教授は、君はアリストテレスを勉強したいと云っているが、アリストテレスを勉強することがつまり歴史哲学を勉強することになるのだ、と答えられた。そのとき私には氏の言葉の意味がよくわからなかったのであるが、後に氏の講義を聴くようになって初めてその意味を理解す
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