うとはしなかった。しばらくするとその討論もひどくだれ始めた。ガロエイ卿もそこを立上って客間を目指した。が長い廊下で七八分間も道に迷った。やがてシモン博士の甲高い、学者ぶった声、次で坊さんの一向パッとしない声、最後に一同のドッと笑う声がきこえた。彼等もまたたぶん、「科学と宗教」の話しをしているのだろうと推量して、ガロエイ卿はにがにがしく思った。だが彼が客間の扉《ドア》をあけると、彼はそこに司令官のオブリアンの居ない事を、また娘のマーガレットも居ない事を見てとった。
 彼は食堂を出て来たように客間を去って、再び廊下を踏みならしながら歩いた。やくざ者のオブリアンの手から娘を護らなくてはならないという考えで、今にも頭が狂いそうな気がした。彼は主人の書斎のある裏手の方に行《ゆ》くと、娘のマーガレットが真青な、侮辱を受けたような顔をしてバタバタと駈出して来るのに出遭ってびっくりしてしまった。もし娘がオブリアンと一緒にいたのだとすれば、オブリアンの奴は今どこにいるのだろう? もし娘がオブリアンと一緒にいなかったとすれば、娘は今までどこにいたのだろうか? 彼は一種の狂的な疑惑の念にかられて、家の暗い奥
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