題になっていたのである。そこで彼はガロエイ夫人に腕をかしながら、大急ぎで、食堂へとせき立てられた。
 マーガレット嬢があの危険千万なオブリアンの腕を取らない限りは、彼女の父は全く満足されていた。しかも彼女はそうせずに、行儀よくシモン博士と這入って行った。それにもかかわらず、老ガロエイ卿は落つきがなく無作法であった。彼は食事中に充分に社交的であった、がしかし、喫煙が終って、若手の方の三人――シモン博士と、坊さんのブラウンと、外国の軍服に身を包んだ亡命客で危険なオブリアン司令官とは、温室の方で婦人達と話したり、煙草を喫んだりするために、いつの間にか消えてしまった時、それからというもの、英国外交官のガロエイ卿はすこぶる社交的でなくなった。彼は破落戸《ごろつき》のオブリアンが、マーガレットに何か合図でもしはしないかと時々刻々そればかり気にしていた。彼は一切の宗教を信仰する白頭の米人なるブレインと、何ものをも信ぜぬ胡麻塩頭の仏人ヴァランタンと、[#「、」は底本では「。」]たった三人取残されて珈琲《コーヒー》をのんでいた。主人とブレインとは互に議論を戦わしたが、二人ともガロエイ卿に助けを乞《こお》
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