ば、どんなものにも即座に金を注ぎ込んだ。彼の道楽の一つは、アメリカ沙翁《さおう》の出現するのを待つことだった――魚釣よりも気の長い道楽だが。彼はワルト・ホイットマンを称讃した、しかしパリのタアナーはいつかはホイットマンよりももっと進歩的であったと考えた。彼は何によらず進歩的と考えられるものが好きであった。彼はヴァランタンを進歩的な男だと思った――それが恐るべき間違いの原因となった。
そのブレインもまもなく姿を現わした。彼は巨大な、横にも竪《たて》にも[#「竪《たて》にも」は底本では「堅《たて》にも」]大きな男で、黒の夜会服にすっかり身を包んでいた。白髪を、独逸《ドイツ》人風に綺麗にうしろへ撫でつけていた。赤ら顔で、熱烈な中にも天使のような優しさがあって、下唇の下に一ふさの黒髯を蓄えている。これがなければ嬰児のように見えるであろう顔に、芝居風な、メフィストフェイス([#ここから割り注]「ファウスト」の中に出て来る悪魔[#ここで割り注終わり])もどきの外観を与えるのであった。けれども、今客間の連中はこの有名な亜米利加《アメリカ》人に見とれてばかりはおられなかった。彼の遅刻がすでに客間の問
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