ンド》で、子供時代に英大使ガロエイ氏一家――ことに娘のマーガレット・ブレーアムと馴染だった。彼は借金を踏倒して国を逃出し、今では軍服、サーベル、拍車で歩きまわって、英吉利《イギリス》風の礼儀をすっかり忘れてしまっている。大使の家族に礼をした時、ガロエイ卿と夫人とは無愛想に首を曲げただけで、マーガレット嬢は傍《わき》を向いてしまったのである。
 しかし、昔馴染のこれらの人達がお互にどんなに興じ合っていようとも、主人のヴァランタンは彼等の特に興味をもったのではない。彼等のうちの一人だって、少なくとも今夜の客とはいえないのだ。ある特別な理由で、彼はかつて米国で堂々たる大探偵旅行を企てた時に知己になった世界的に有名な男を待っていた。彼はジュリアス・ケイ・ブレインと言う数百万|弗《ドル》の財産家の来るのを待っていたのだ。このブレインが群小宗教に寄附する金は人をアッといわせるほど巨大なもので、英米の諸新聞のいい噂の種となったものである。そのブレインが無神論者であるのか、モルモン宗徒であるのか、基督《キリスト》教信仰治療主義者であるのか、それは誰にもわからなかった。が、彼は新らしい知識的宣伝者と見れ
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