が訊いた。
「サア、なぜ被害者は悲鳴をあげるとか、何とかしなかったのでしょう? 庭に軍刀なんていう事はたしかに類の無い事です」
「樹の枝をな」と坊さんは気難しげに云った、そして兇行の現場《げんじょう》の見える窓の方に向いた。「誰もあの小枝の光を見られなんだ、がなぜあんな枝が、他の樹からはあんなに遠くはなれている芝生の上等に、落ちておったか? あれは折取ったのではなく、切断されたものです。犯人は、軍刀で空中で枝を切る事が出来るという事を見せて、敵をあやつっておったのですな。でそれから、敵が腰をかがめてその結果を見ようとした所を、不意討ちにスパリ、そして首が落ちたという具合じゃな」
「なるほど」と博士は落着いて、「だが、次の疑問には誰れでも閉口するだろう」
坊さんはなおも鑑定でもするように窓の外を見やって、博士の言葉を待っていた。
「御存知の通り、この庭は密閉室のように四方が封じられています、いいですか、しかるに、どうしてよその人間が庭に忍び込んだものでしょう?」と博士は云い続けた。
振向きもせずに、坊さんは答えた、「よその人なんぞは決してはいって来はせんよ」
ここでちょっと沈黙があ
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