二人は腰掛から飛上った。その拍子に腰掛が躍った。
「それでなお不思議なことは」とブラウンは鈍い眼で庭の石楠花《シャクナゲ》を見やりながら続けた、「今度のも前と同じ伝でな、首斬事件なんですて、第二の首は例のブレインさんの巴里《パリー》街道を数|碼《ヤード》ほど先へ行った河の中で真実血を流しておったのを発見したんでな、それで皆んなの推量では、あのブレインさんが……」
「へへえ! ブレインは首斬狂者なんだろうか?」とオブリアンが叫んだ。
「亜米利加《アメリカ》人同志の仇討ですかな」ブラウンは気の浮かなそうに云った。「それであなたがたに図書室へ来て見てもらわなければならんということでしてな」
 オブリアンは胸がむかつくように感じながら、二人の跡について行った。
 図書室は天井の低い細長い暗い部屋であった。主人のヴァランタンは執事のイワンと共に、長いやや傾斜した机の向側で一同を待ち受けていた。机の上には庭で発見された被害者の大柄な黒い身体と黄色い顔とが大体|昨夜《ゆうべ》のままで横たわっていた。今朝河の葦の叢の中から拾った所の、第二の首は、それに並んで、血の滴り流れるままに置かれてある。その胴体
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