ものですな、時に博士、イワンは被害者のポケットに米国の貨幣がはいっていたと私に話しましたが、すると、被害者はやはりブレインの国の者だったと見えますな。それでもう事件には疑問等は何もないようですな」
「いやここに五つの大きな疑問があるのです」博士は静かに言った。「ちょうど塀の中に更に高い塀がある様に。しかし誤解しないで下さい。ブレインがやったという事を疑うんじゃないですからな。彼の逃亡。それが何よりの証拠です。しかしあの男がどういう風にしてやったかが問題なのです。第一に人を一人殺すに、どうしてああした大きな軍刀等を用いたのでしょうか、ポケットナイフで充分殺すことが出来るし、そして後でポケットの中へしまう事が出来るんですからね。第二の疑問は、兇行の時になぜ物音も悲鳴もきこえなかったのでしょう? 人間は通常、一方が蛮刀をふりかざして迫って来るのを声も立てずにただ見ていられるものでしょうか? [#「でしょうか? 」は底本では「でしょうか」]第三は、例の召使いが宵の中《うち》ずーと玄関口に番をしていましたから、鼠一匹庭の方へはいられる訳がないんです。どうして被害者ははいって来られたでしょう? 第
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