てすぐにここに御連れしろ」
執事が扉《ドア》を閉めて出て行《ゆ》くと、ヴァランタンは今実に非常な熱心さを持って令嬢に話しかけた。
「マーガレット嬢、吾々一同はあなたが司令官の行為について試みられた御説明に対しては感謝と賞讃を感じました。しかし、その御説明にはまだ足らん所がある。御父さんはあなたが書斎の方から客間の方へ行《ゆ》かれたのと出遇われたという御話です。それからわずかに二三分たって、お父さんは庭の方にオブリアン君がまだ散歩しておられるのを見られたという事ですが」
「けれどもこういう事も御承知になっていただきたいのですわ」と彼女の声に幾分皮肉さをもってマーガレットは答えた。「あれは私があの方の御申込を御断りいたしたばかりの時でございましたから、二人腕を組んで戻ってまいる訳にもまいりませんでしたの。とにかく、あの方は紳士でいらっしゃいますから、それであの方は後へお残りになりましたものですから――殺人の嫌疑等を御受になったのでございますわ」
「その何分かの間に」とヴァランタンは重々しくいった。「オブリアン君は事実その――」
またもやノックの音がしてイワンが刀痕のある顔を差出した。
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