うな沈黙の中にシモン博士はこれだけの事を云った。「軍刀――そうですなア、軍刀なら斬れるかもしれません」
「ありがとう」とヴァランタンが云った。「おはいり、イワン」
 忠実なイワンは扉《ドア》を開きオブリアン司令官を案内して来た。司令官がまだ庭を歩いてるのをやっと見つけて来たのだ。
 司令官は取乱した風で、それに少しムッとした態度で戸口に突立っていた。「何か御用がおありですか?」と彼は叫んだ。[#「。」は底本では「、」]
「まアかけたまえ」ヴァランタンは愛想よく、きさくに云った。「おや、君は軍刀をつけていませんね、どこへお置きになりました?」
「図書室の卓子《テーブル》の上に置いて来ました」ドギマギしているので、彼のアイルランド訛を丸出して、オブリアンは言った。「それは邪魔だったものですから、それが腰に当って……」
「イワン」とヴァランタンが言った、「図書室から司令官殿の腰の物を取って来てくれ」召使いが立上ってから、「ガロエイ卿はちょうど死体を発見される前に、君が庭に出て行《ゆ》かれるところを見たと言われるんだが、君は庭で何をしておられたんですか?」
 司令官は投げるように身体を椅子に落
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