「吾々は家に入る方がよかろう」
彼等は書斎の長椅子の上に死体を運んで、それから客間へ行った。
探偵は静かに、少しぐずぐずしながら机に向った。しかし彼の眼は裁判官席の裁判官の鉄の眼のようであった。彼は前にある紙片に何か二三行走り書きをしてから、言葉短かに、「皆様ここにお揃いでしょうか?」と訊ねた。
「あのブレインさんがいらっしゃいませんが」とモン・ミシェル公爵夫人があたりを見廻しながら云った。
「そうそう」とガロエイ卿も嗄《しわが》れ声を出して、「それからオブリアン君も居らんようですが、私はあの人を、死体がまだ温《あたたか》った時にお庭を歩いておるのを見かけましたが」
「イワン、オブリアン司令官殿とブレインさんをお連れ申しておいで」と主人が云った。「[#「「」は底本では「」」]ブレインさんは食堂の方で葉巻をもう終りかけておられる頃だろうし、オブリアン司令官は温室を散歩しておいでだろう。判然《はっきり》は解らんが」
忠実な執事が消え去ると、ヴァランタンは一同に息もつかせぬように、軍人式の容赦のない句調で語をつづけた。
「ここにお出《で》になる皆さんは御存知の事でしょうが、庭に人間の死
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