らガロエイ卿あなたは御婦人方へ恐慌を起さんようにうまく事件のことをお話し下さるに最も適当な方だと思いますが。御婦人方にも残っていただかなくてはならんです。師父さんと私は死体の番をいたしましょう」
シモン博士は剣《つるぎ》の室《へや》へ行って、本職探偵の私立探偵のようなイワンを呼んだ。ガロエイ卿は客間へ行って、巧みにこのおそろしい事件を報告した、それでまもなく一同が客間へ集った時には婦人連は既に驚きが終りまたもう宥められていた。
傷痕と口髭とをもつ忠実な臣イワンは弾丸のように家の中から飛び出し、犬が主人に呼ばれたように芝生を横ぎってヴァランタンの所に駈付けた。彼の鉛色の顔も、家内に探偵事件が起ったときいて活気に燃え立っていた。死体を調べてもよいかと主人の許しを乞う様はほとんど不愉快なほど夢中であった。
「よし、見たければ検べてもよい」と主人が云った。「しかし長くはいかんよ。部屋へ帰って色々しらべなければならん事があるから」
イワンは彼の顔をあげた。が、落すようにそれを置いた。
「オヤ、これは、不思議不思議! 閣下はこの男を御存知で?」
「知らん」ヴァランタンはぶっきらぼうに云った。
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