が、大きい声で、唄いながら、庭の生垣のところから、覗き込んだ。
「お帰りなさい」
 七瀬に、挨拶して、生垣を、押し分けて入って来た。そして、綱手の顔を見ると
「何を叱られた?」
 綱手は、袖の中へ、顔を入れた。
「若君、お亡くなりになったと申しますが、小父上――前々よりの御三人の御病症と申し、ただ事ではござりますまい」
「或いは――」
「七瀬殿を幸い、そのまま、奥の機密を、探っては?」
「七瀬は――離別じゃ」
 益満は、腕組をして、脣を尖らせた。
「離別」
「止むを得まい。仙波の家の面目として」
「面目が立てば?」
「立てば?」
「某《それがし》に、今夜一晩、この話を、おあずけ下さらんか。小太郎と談合の上にて、聊《いささ》か考えていることがござる」
「何ういう?」
「それは――のう、小太。云わぬが、花で。小父上、若い者にお任せ下されませぬか」
 八郎太は、益満の才と、腕とを知っていた。
 齢を超越して、尊敬している益満であった。

「益満様」
 七瀬が、一膝すすんで
「只今も、叱られましたところで――怪力乱神を語らずと申しますが、不思議な事が、御病室でござりました」
 小太郎も、益満も
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