は眼を赤くして、げっそりとやつれていた。眼の色も、干《かわ》いて、悪くなっていた。
八郎太は、慰めてやりたかった。可哀そうだ、とも思った。こいつの性質として、十分に努力はしただろうと思った。だが、もし、寛之助様の病がよくなったのだとしたら、自分は、どんなに肩身が広く、出世ができるか? と思うと、何んだか、七瀬の背負っている運が、曲っているようで、不快でもあった。
七瀬は、部屋の中へ入って、後ろ手に襖を閉めた。そして
「お詫びの申し上げようもござりません」
両手をついて、頭を下げた。
「仕方がない」
八郎太は、低く、短く、こういったきりであった。
「ただ一つ、不思議な事がござりまして、それを申し上げたく、取急いで、戻って参りました」
小太郎は、ほっとした。何か、母が、証拠でも握ってくれたのであろう。それならば、それを手柄にして、円満に行けば――と、母の顔を見た。
「どういう?」
「一昨日の夜のことでございます。夢でもなく、うつつでもなく、凄い幻を見ましたが、これが、若君を脅かすらしく、幻が出ますと、急に――」
八郎太の眼が、険しく、七瀬へ光った。
「たわけっ」
八郎太は、睨
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