口を切ったまま、小藤次の眼を、じっと、凝視めていたが
「御用か」
「用だから、来たんだ。手前、さっきの人間の手を折ったな」
「如何にも――」
「如何にもって、一体、何うするんだ。人間にゃ、出来心って奴があるんだ。出来心って――つい、ふらふらっと、出来心だ。なあ。それに、手を折って済むけえ。納得の行くように、始末をつけてくれ、始末を――始末をつけなけりゃ、俺から、大殿様へ御願えしても、相当のことはするつもりだ。人間の出来心ってのは、こんな日和《ひより》には、ふらふらと起るものだ。それに、手を折るなんて――」
「ふらふらっと、出来心じゃ」
 小藤次の顔が、さっと赤くなると
「何っ」
 と、叫んだ。職人が、じりっと、一足進み出た。
「出来心だ?――出来心で、人様の手を折って――じゃあ、手前、出来心で、殺されても文句は無えな。馬鹿にするねえ、この野郎、人の手を折っときゃあがって、出来心だ? 出来心が聞いて呆れらあ」
「親方、やっつけてしまいなせえ。野郎の手を折りゃ、元々だ」
 職人が、喚いて、得物を動かした。
「猫、鳶に、河童の屁」
 と、通りがかりの男が大きい声をして、人々の後方から覗き込ん
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